【文献】
D.J. Iverson, D.J. Gronseth: Practice Parameter update: Evaluation and management of driving risk in dementia. Report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology: 2010; 74: 1316-1324.
【この文献を選んだ背景】
認知症患者の診察中に家族から「運転がもう危ないと思うんですけれど・・・」と相談をされることがよくある。話を聞くと確かにあやしげである。一方で患者本人は「まだまだ大丈夫」といってすぐやめる気配はない。認知症患者の自動車運転のリスク評価をきちんとできていない自分もいる。
WONCAのJournal Alertを眺めていたところこの文献を見つけたため紹介する。
【要約】
《背景》
軽度の認知症患者は集団としては自動車運転のリスクが高いが、最近の研究では76%もの患者が路上運転試験をパスし、安全に運転が可能であることが示されている。臨床医は安全に運転できる患者を不必要に制限することなく、リスクの高い患者を見つける方法を求めている。
《目的》
認知症患者の自動車運転の能力を予測できる患者特性や病歴、認知機能テストの有用性に関するエビデンスをレビューすることと運転のリスクを回避する方法の有効性を測定すること。
《方法》
American Academy of Neurology’s evidence-based methodsを用いた文献のシステマティックレビュー。
5つの問いをたて、文献をレビューした。
《結果》
(1)認知症の重症度の包括的な測定法はどの程度運転能力と強く相関するか?
Clinical Dementia Rating(CDR; 参考文献参照)は危険な運転のリスクの高い患者の発見に有用。(Level A)
MMSE24点以下は有用とするエビデンスはある(Level C)一方で、相反するエビデンスもある。
(2)患者自身や介護者は運転能力や危険をどの程度評価することができるか?
介護者による評価は危険な運転者のリスクの高い患者の発見に有用。(Level B)
患者自身による評価は患者が安全に運転できることを保証するには有用ではない。(Level A)
(3)どのような病歴が運転能力の低下と関連するか?
・ 過去1~5年の間に事故を起こしたという病歴、過去2~3年の間に交通違反のきっぷをきられたという病歴は有用。(Level C)
・運転する距離が短くなった、運転の機会をなるべく避けるようになったという病歴は有用。(Level C)
・運転の機会をへらしているという病歴がないことは安全に運転できる能力があることを保証するものではない。(Level C)
・攻撃的、直情的な性格傾向は運転のリスクが高い患者の発見に有用。(Level C)
(4)神経心理学的検査は役に立つか?
神経心理学的検査が運転のリスクの評価に有用であるという十分なエビデンスはない。(Level U)
(5)運転のリスクを軽減する介入法は存在するのか?
認知症を有する運転者に対する介入法の効果を支持するまたは否定する十分なエビデンスはない。(Level U)
《考察》
CDR1.0の比較的軽度の認知症の患者では路上運転試験をパスするケースも多いため、運転を制限する必要のない患者に介入を行わないように、その他のリスクファクターを考慮して対応を決めるような下記アルゴリズムを提唱している。
DMV: department of motor vehicles
※ 参考文献: Morris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology 1993;43:2412-2414.
【考察とディスカッション】
CDRは比較的煩雑な評価過程を経るため、家庭医療の外来でどの程度実戦可能か、検証する必要性がありそうだ。
日本の法制では「認知症」と診断された場合、公安委員会により「運転免許を取り消す」「免許の効力を停止する」ことができる、と定められており、75歳以上の高齢者には認知機能検査を行うこととなっている(参考資料: 認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル)が、この文献にもあるように軽度の認知症患者のかなりの数が安全に運転できること、これだけ自動車が普及し、公共の交通機関が縮小された日本の郡部にすむ高齢者においては慎重に「運転免許取り消し」「免許の効力停止」を検討しなければ、日常生活の生命線が失われることにもなりかねない。
このようなエビデンスを元に制度も構築され、修正されることが望ましいだろう。
【担当者】
山田康介(更別村診療所)
【開催日】
2011年11月24日(水)
D.J. Iverson, D.J. Gronseth: Practice Parameter update: Evaluation and management of driving risk in dementia. Report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology: 2010; 74: 1316-1324.
【この文献を選んだ背景】
認知症患者の診察中に家族から「運転がもう危ないと思うんですけれど・・・」と相談をされることがよくある。話を聞くと確かにあやしげである。一方で患者本人は「まだまだ大丈夫」といってすぐやめる気配はない。認知症患者の自動車運転のリスク評価をきちんとできていない自分もいる。
WONCAのJournal Alertを眺めていたところこの文献を見つけたため紹介する。
【要約】
《背景》
軽度の認知症患者は集団としては自動車運転のリスクが高いが、最近の研究では76%もの患者が路上運転試験をパスし、安全に運転が可能であることが示されている。臨床医は安全に運転できる患者を不必要に制限することなく、リスクの高い患者を見つける方法を求めている。
《目的》
認知症患者の自動車運転の能力を予測できる患者特性や病歴、認知機能テストの有用性に関するエビデンスをレビューすることと運転のリスクを回避する方法の有効性を測定すること。
《方法》
American Academy of Neurology’s evidence-based methodsを用いた文献のシステマティックレビュー。
5つの問いをたて、文献をレビューした。
《結果》
(1)認知症の重症度の包括的な測定法はどの程度運転能力と強く相関するか?
Clinical Dementia Rating(CDR; 参考文献参照)は危険な運転のリスクの高い患者の発見に有用。(Level A)
MMSE24点以下は有用とするエビデンスはある(Level C)一方で、相反するエビデンスもある。
(2)患者自身や介護者は運転能力や危険をどの程度評価することができるか?
介護者による評価は危険な運転者のリスクの高い患者の発見に有用。(Level B)
患者自身による評価は患者が安全に運転できることを保証するには有用ではない。(Level A)
(3)どのような病歴が運転能力の低下と関連するか?
・ 過去1~5年の間に事故を起こしたという病歴、過去2~3年の間に交通違反のきっぷをきられたという病歴は有用。(Level C)
・運転する距離が短くなった、運転の機会をなるべく避けるようになったという病歴は有用。(Level C)
・運転の機会をへらしているという病歴がないことは安全に運転できる能力があることを保証するものではない。(Level C)
・攻撃的、直情的な性格傾向は運転のリスクが高い患者の発見に有用。(Level C)
(4)神経心理学的検査は役に立つか?
神経心理学的検査が運転のリスクの評価に有用であるという十分なエビデンスはない。(Level U)
(5)運転のリスクを軽減する介入法は存在するのか?
認知症を有する運転者に対する介入法の効果を支持するまたは否定する十分なエビデンスはない。(Level U)
《考察》
CDR1.0の比較的軽度の認知症の患者では路上運転試験をパスするケースも多いため、運転を制限する必要のない患者に介入を行わないように、その他のリスクファクターを考慮して対応を決めるような下記アルゴリズムを提唱している。
DMV: department of motor vehicles
※ 参考文献: Morris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules. Neurology 1993;43:2412-2414.
【考察とディスカッション】
CDRは比較的煩雑な評価過程を経るため、家庭医療の外来でどの程度実戦可能か、検証する必要性がありそうだ。
日本の法制では「認知症」と診断された場合、公安委員会により「運転免許を取り消す」「免許の効力を停止する」ことができる、と定められており、75歳以上の高齢者には認知機能検査を行うこととなっている(参考資料: 認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル)が、この文献にもあるように軽度の認知症患者のかなりの数が安全に運転できること、これだけ自動車が普及し、公共の交通機関が縮小された日本の郡部にすむ高齢者においては慎重に「運転免許取り消し」「免許の効力停止」を検討しなければ、日常生活の生命線が失われることにもなりかねない。
このようなエビデンスを元に制度も構築され、修正されることが望ましいだろう。
【担当者】
山田康介(更別村診療所)
【開催日】
2011年11月24日(水)
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by hcfm
| 2010-11-24 09:41
| Journal Club