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北海道家庭医療学センター HCFM

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Journal Club ~Motivational Interviewing(動機づけ面接法)とは?(その2)~

【文献】
ウイリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック 著 松島義博、後藤恵 訳
動機づけ面接法 基礎・実践編. 星和書店,2007.
【この文献を選んだ背景】
行動変容についての執筆を行うにあたり、「Motivational Interviewing(動機づけ面接法)」という方法について知ったため。
【要約】
動機づけ面接法(Motivational Interviewing)の精神
もし動機づけ面接法が人とともに在る方法であるならば、その底に流れている精神は、人間の在り方を規定する人間性の本質を理解し、経験するところにある。人が面接の過程をどのように理解し考えるかは、面接の方法に大きな影響を与える。
(1)協働性:動機づけ面接法の精神の、鍵となる構成要素の1つは、協働性である。動機づけ面接法は、勧告よりも探求を、説得や議論ではなく援助を提供する。動機づけ面接法の人間関係は、希望や意志(これはたいていの場合、2人の間で異なる)の出会いであるともいえる。自分の意見や身に備わっているものに気がつかないうちは、全貌の半分しか見えていないのである。
(2)喚起性:協働的な役割を維持するには、面接者が何かを与えるのではなく、当事者その人の中に、知恵や洞察力、あるいは現実的経験を見出し、引き出すことが必要である。動機づけ面接法の過程は、教え込み・植えつけるのではなく、誘いだし・引き出す。それは、個人の心の中にある「変化への動機」を見いだし、呼び覚まし、奮い立たせることである。
(3)自律性:問題行動を続けるか否か、どういう行動を選択するかは、本来その人自身が責任をもって決めるべきことである。つまり動機づけ面接法は個人の自律性を尊重する。心の中にある動機を強化し、外側から変化を強制するよりも、むしろ自分自身の目標と価値観に従って、内側から変わっていくように援助するのが、最終的な目標である。このように、動機づけ面接法が正しく行われると、カウンセラーではなく、クライアント自身が変化について話し始める。
4つの一般原理
(1)共感を表現する:この共感の根底にある態度は、「受容」である。受容は同意や許可とは違う。個人の意見に同意や支持をせずに、その人を理解し受容することは可能である。逆説的ではあるが、人をありのままに受容する態度は、その人を自由にして、変わる方向へ導く。一方、非受容的態度は、変化の過程で人を身動きできなくさせる。行き詰った両価性の状態は、病的で有害な防衛ではなく、変化に当たって一般的な人間的経験とみなされる。

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# by hcfm | 2010-09-22 11:42 | Journal Club

Journal Club ~認知症患者の介護に有用な「パーソンセンタードケア」①~

【文献】
Philip D Sloane, et al. Effect of Person-Centered Showering and the Towel Bath on Bathing-Associated Aggression, Agitation, and Discomfort in Nursing Home Residents with Dementia: A Randomized, Controlled Trial. J Am Geriatr Soc;52:1795-1804. 2004.
【この文献を選んだ背景】
初めて勤めた病院の急性期内科病棟では、看護師が看護の中でも、認知症の方の仕事・趣味・背景が病棟の中でもにじみ出るような関わりを行っていた。明文化されたコンセプトがあったわけではなかったようだが、認知症の方はとてもいきいきしていた。その後の研修で、他の病院・診療所を回るうちに、そのような関わりが無いと認知症の方は元気を失ってしまうのではないかと気づくようになった。
後に認知症のケアについて学んでいくにつれ、その病棟でのケアのあり方と「パーソンセンタードケア」が一部似ていることに気がついた。医師として、介護士や家族に関わり方の教育をする上で今、欠かせないケアの方法となりつつあるようである。今回はそのパーソンセンタードケアに基づいた介入研究を、次回は認知症をケアする介護士や家族のために書かれた本を紹介したい。
【要約】
《導入》
(認知症の)パーソンセンタードケアとは?
おおもとは、イギリスの心理学者のJ. キットウッドが提唱。
● パーソンセンタードケアのコンポーネント (参考文献より)
•人間性が失われたのではなくて、見えなくなっているだけとみなす。
•全てのケアの場面で、その人の人間らしい側面を重視する。
•環境やケアを個別化したものとする
•意志決定の共有(Shared-decision making)を提案する
•認知症の方の行動を、その方の視点にたって解釈する
•ケアのルーチンタスク(清拭など)と同等に、認知症の方との関係性に重きを置く。
● 今回の文献の中では以下の一連のアプローチを指している。
 ・居住者の快適さと好みを尊重する
 ・行動的症状は、ニーズが満たされていないため起こるとみなす
 ・居住者の認知機能に合わせたレベルのコミュニケーションを行う
 ・問題解決的アプローチを用いる
 ・居住者の快適さのために、環境の調節を図る
《目的》
●介護施設入所中の認知症患者の興奮状態や攻撃的行動を減らすための非薬物的介入(Person-centered showingまたは、Towel-bath)の効果を評価する。
【研究デザイン】
ランダム化比較試験 
【セッティング】
15の高齢者福祉施設(Nursing home)
【論文のPECO】
P;入浴介助時に興奮したり、攻撃的行動がみられた認知症利用者69人と介助する介護者37人
E;①person-centered showering
  ②the towel bath (a person-centered, in-bed bag-bath with no-rinse soap)  ①と②はクロスオーバー
C;通常通りのケア
O;AgitationとAggression、入浴時間・入浴が終えられるか、皮膚の状態、皮膚常在菌叢
 AgitationとAggressionは Care Recipient Behavior Assessment(CAREBA)というスコアで測定された。
 利用者の不快感についても、Discomfort Scale for Dementia of the Alzheimer Typeというスコアで測定された。

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# by hcfm | 2010-09-15 12:50 | Journal Club

Journal Club ~ジェネラリストの重要な役割であるコーディネーションの今後を考える~

【文献】
Stille CJ: Coordinating Care across Diseases, Settings, and Clinicians: A Key
Role for the Generalist in Practice. Ann Intern Med. 2005 Apr 19;142(8):700-8.
【この文献を選んだ背景】
執筆に関連して参考文献を検索していた際に、ケアのコーディネーションに関する文献で非常に興味深いものに出会った。家庭医療、プライマリケア医の視点だけでなく、広くジェネラリストとしてgeneral internal medicineの視点でもこの分野の重要性を説いている。
【要約】
《背景として》
コーディネーションはプライマリケアの原則の一つであるが、アメリカにおける医療システムでは徐々に複雑化する医療の中で提供するのが難しくなってきている。研究や臨床においてそれを推進していくためには、さらなるエビデンスが必要である。ジェネラリストはケアをコーディネートし、ほとんどの患者に対してのケアのハブとして機能し、臨床医同士のコミュニケーションを改善し、チームアプローチを実施し、患者と家族の関係性を統合し、医療情報を統合するために診療すべきである。ジェネラリストの診療において中心的要素であるが労力を要する。今後、コーディネーションの本質的要素を同定し、健康度を改善する上で有効であることを示していく必要がある。
《方法》
5人の臨床医(総合内科医3名、家庭医1名、小児科医1名)によるボランティアグループを作り、コーディネーションについての文献をレビューし、recommendationを作成した。5度の電話会議と頻回のe-mailのやり取りを6カ月にわたり実施した。
その結果、ジェネラリスト診療の観点から以下の問いに対しての研究が選ばれた。
1.コーディネーションがヘルスケアを改善するエビデンスにはどのようなものがあるのか?
2.コーディネーションする際にジェネラリストの診療はどのような役割を果たすべきか?
3.ジェネラリストとスペシャリスト間の協働においてどのような改善をすればよいか?
4.最良のコーディネーションを提供するためにはどのようにチームを構成すればよいか?
5.コーディネーションにおいて患者とその家族はどのような役割を担うべきか?
6.医療情報はコーディネーションにおいてどのように役立つのか?
彼らはレビュー後にrecommendationとさらなる研究の必要性を指摘した。その後2003年national grantees’ meentingにて100人以上のscholars,mentors,nationally achnowledged expertによって議論され、その内容も結果には盛り込んだ。
《結果》
Consensus Recommendations
1.健康を改善するためのコーディネーションは価値があるということを証明し、コーディネーションモデルにおいて最も有用な要素は何かを同定するために更なる研究が必要である。
2.ジェネラリストはほとんどの患者に対してコーディネーションの医療的側面から適切なハブとなる必要がある。
3.ジェネラリストとスペシャリストは適切なタイミングで、しっかりと計画立てられたケアを保証するためにより密接に協力しあい、コミュニケーションをとらなければならない。
4.ジェネラリストは患者やコミュニティに対して適切で見えやすいチームを構築しなければならない。そしてそのチームを維持しなければならない。
5.コーディネーションにおいて患者と家族の役割はヘルスケアシステムによって育て、盛り上げられなくてはならない。
6.ジェネラリストは知識量を増やすためのコミュニケーションとアクセスを良くするために合理的な情報活用システムを構築すべきである。
【考察とディスカッション】
ケアのコーディネーションを学んでいく上で、カテゴリー分けが自分の中でできた。
また、重要性はだれもが理解しているのだが、それをしっかりと証明し、そこに価値を見いだせていけなければ政策上にも反映できないであろうし、これらに対しての労力に比しインセンティブが働かないという現状を打開できない可能性が高い。我々のように組織としてその重要性を見いだせているところは大きな疑問を持たずに推進していけるであろうが、それ以外の医師らの理解を得るにはこれらのエビデンスは不可欠であろう。
全体でのディスカッション
ケアのコーディネーションなど、「重要性・有用性は明らか」と思われていることでも研究ではその重要性や有用性が示されていない領域があり、リサーチクエスチョンとして重要であろう。

【担当者】
中川貴史 (寿都町立寿都診療所)
【開催日】
2010年9月15日(水)
# by hcfm | 2010-09-15 09:54 | Journal Club

Journal Club ~スティグマ 慢性疾患に対して個人や社会が与えるインパクト~

【文献】
アイリーン・モロフ・ラブキンら著.“第三章:スティグマ”.クロニックイルネス.医学書院,2007,p43-64
【この文献を選んだ背景】
レジデンシー東京のレジデントデイに参加したときに、“スティグマ”という言葉を何回か耳にしていた。たまたま持っていた「クロニックイルネス」でその言葉を見つけて昨年自習した。今回、更別村診療所での抄読会でも再度読み終えたため、これを機会に自分なりにまとめておきたかったため。
【要約】
《イントロダクション》
スティグマは社会的な“烙印”であり、負の価値判断を与え社会的アイデンテンティを損なわせるものである。
この概念に関して、私たち一人一人が自分の思いと行動を注意深く検討する必要がある
「正常な人々」は誰でも、故意にまたは別の方法で異なる人々をスティグマ化し、社会の中での自分の安定感を最大限に確保しながら自分たちの不安を最小限にする傾向を持つ
<社会的アイデンティティ>
社会的アイデンティティは以下の3つを含む ①身体活動②仕事上の役割③自己の概念
これらのどれかを変化させるものが個人のアイデンティティを変化させ、スティグマが生じる
<乖離としてのスティグマ>
期待される社会的アイデンティティと、現実の社会的アイデンティティの乖離や差異がスティグマとして定義される
  ・損なわれたアイデンティティ
   病気だけでなく、その病気が与える脅威、それに伴う罪や恥の意識がスティグマとなる
    例:アルコール依存症、AIDS患者、てんかん、ダウン症、高齢者でさえも
スティグマの存在下では個人の価値がスティグマの影響を強く受けるため、その疾患の持つ多様性も無視されてしまい、またその他の個人的な特徴も覆い隠されてしまう
  ・顕在型と潜在型
顕在型は目に見える手掛かりを伴う 潜在型ははっきりと欠陥が見えない
 <スティグマの類型>
① 身体的相違(身体障害者、高齢者など) ・・・期待と現実の身体的状態の差異
② 特徴的な欠点(AIDS、同性愛など)・・・社会的認識や文化からの派生
③ 偏見(女性、国籍など)・・・別カテゴリー・グループの特徴への歪んだ認識
これら3つは重複し、それぞれが強化される。また一度スティグマが付与されると、その原因が取り除かれたとしても、その歴史のみで永久にアイデンティティが損なわれる。
<スティグマとしての慢性疾患>
スティグマは社会の価値観と慢性疾患の現実の衝突から生じる。
また病因を特定できないという特徴は、多くの慢性疾患においてスティグマの一因になる。
スティグマは本人とその家族の不公平な治療に結びつく可能性がある。
《スティグマのインパクト》
<スティグマを付与されている人による他者への反応>
  無視、孤立、二次的利得、抵抗、素通り、偽装工作
<スティグマを付与されていない人々への、スティグマを付与されれている人々への反応>
  価値の値引き、ステレオタイプ、レッテル貼り
<保健医療職者のスティグマへの反応と態度>
  スティグマは学生時代の教員やスタッフに感化されやすく、また実際に出会ったクライエント
との出会いや相互作用で変化する
また医学生は自分の健康問題に付与される社会的スティグマを過度に認知し、それを開示する
ことで自分の専門職としての立場が危ぶまれるのではという深い懸念を持つ

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# by hcfm | 2010-09-08 11:20 | Journal Club

Journal Club ~複雑性をどう評価するか?~

【文献】
Katerndabl DA, Wood R, Jaen CR. A Method for estimating relative complexity of ambulatory care. Ann fam med 2010;8(4):341-7.
【この文献を選んだ背景】
「複雑性」は家庭医療を説明する際の重要なキーワードであり、「包括性」と相補するものと考えていた。「包括性」はプロブレムの領域の広さを考えればよいが、「複雑性」はその周辺の情報も含めた多様な要因を加味しなければならず、外的な評価を行うことがなかなか難しい。今回、この領域に挑戦した研究論文が目にとまったので、一度検討してみたいと考えた。
【要約】
《目的》
 外来の臨床診療における相対的な複雑性を計算する方法を明らかにする
《方法》
・ 複雑性の測定は、典型的な診察及び診察間の複雑性を反映させるべきである。もし、インプットを患者から医師への情報の流れとするならば、インプットには病歴、身体診察、検査、診断、患者の属性が含まれる。アウトプットには処方薬や他の治療法(教育やカウンセリング、手技、紹介など)が含まれる。インプット・アウトプットのそれぞれの複雑性は、一診察あたりの平均インプット/アウトプット量に対して診察間の多様性(可能性としての範囲)と変動性(診察毎の変化)を加重平均したものと定義される。複雑系においては、インプット情報が直線的に増えれば、システムの複雑性は指数関数的に増大する。診察における複雑性が医師に与えるインパクトを評価するために、我々は推定複雑性を診察時間で調整した。
《結果》
・ 2000年のNAMCSデータベースを用いて、3専門領域のインプットとアウトプットを計算した。構成概念上の妥当性は、今回の複雑性の相対順位を、他(既存の)の複雑性測定法を利用した順位と比較することで確認した。総相対的複雑性は家庭医療(44.04±0.0024SE)、循環器(42.78±0.0004SE)では類似しているが、診察時間で調整すると、家庭医療は単位時間あたりの複雑性密度が循環器や精神領域よりも非常に高かった。(家庭医療167.33±0.0095SE、循環器125.4±0.0117SE、精神領域31.21±0.0027SE)
《結論》
・ この手法では、多様性と変動性を加重した、提供されるケアの量に基づく複雑性を推定している。この推定法は、経時的な利用に加えて、医師間での複雑性の比較などに幅広く活用できる。
【考察とディスカッション】
 複雑性の定義にて、まずは純粋な情報量、そして変動性を加味しているのは割合シンプルで受け入れやすい方法と感じた。それを時間で割ることは確かに必須であろう。ただ、DiseaseとIllnessの検討、さらにはコンテクストを考慮して、各種オプションを提示しながらマネジメントプランを探るという複雑さについては、十分反映されているか疑問に感じる。量と変動性に加えて、そうした「Contextual care」「patient-centeredness」の要素(特にネゴシエーション部分)を加えることが、「複雑性」の妥当性を高めることにつながる印象があるので、そうした指標の作成に向けての検討などまだまだこの領域でも取り組むことが多いと感じることができた。HCFMの臨床研究活動に大いに反映させていきたいと思う。
【担当者】
草場鉄周(本輪西ファミリークリニック)
【開催日】
2010年9月8日(水)
# by hcfm | 2010-09-08 11:08 | Journal Club
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