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北海道家庭医療学センター HCFM

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Journal Club ケアの継続性 ~どう学び、どう教えるか?~

【文献】
Karen Schultz:Strategies to enhance teaching about continuity of care.
Can Fam Physician Vol. 55, No. 6, June 2009, pp.666 - 668
【この文献を選んだ背景】
・ケアの継続性に関する執筆作業で見つけた論文で、多面的な定義からその教育方法が記載されていたため。
・今年度からHCFMのレジデンシーが半年ローテから一年ローテになったが、それで「ケアの継続性」が更に学べるようになった?と言っていいのかという疑問を以前からもっており、そのヒントになると考えて読んでみた。
・また「ケアの継続性」は家庭医にとって重要な概念でありながら、その定義の多様性と、その教育方法についての知識不足/経験不足を感じていたため。
【要約】
 ケアの継続性の教育においてはその重要性や長所と共に、長期的な治療関係における困難な側面と、それを扱うための対処についての教育も重要である。
以下は、ケアの継続性の多面的な要素について教育するための方法である。
ケアの継続性の6つのコンポーネントの教育方略
1.長期的な継続性 :時間経過のある診療の経験
《長所》
やったことの結果をみることができる、先送りせず困難な状況を扱うことを学ぶ
《実施計画》
(1)自分で同じ患者さんをフォローアップするための方法を伝える。
(2)受付にそのレジデントがいないときに予約しないように頼む。
(3)ローテーションの中間の振り返りで、一連の受診についてFeedbackを与える。

2.情報の継続性 :過去のケアの情報へのアクセス
《長所》
患者ケアの効率と安全性が向上する
レジデントが患者の経緯を知っていることで患者の満足度が向上する
《リスク》
記録が不完全(特に今後のプランに関して)
《実施計画》
(1)最初の診療計画を立てるために検査室(電子カルテの前)での仕事を指示する
(2)もし可能で適切であれば、特に複雑な患者についての知識をローテの初期に伝え、総合的なアセスメントを立てておく
(3)初回の診療時にレジデントに患者の背景情報を伝える
(4)引き継ぎのサマリー記載を依頼する(書く方、受け取る方双方にメリットあり)

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# by hcfm | 2010-11-10 11:42 | Journal Club

Journal Club ~家庭医療の発展におけるメンターシップの重要性~

【文献】
Hajar Kadivar: The Importance of Mentorship for Success in Family Medicine. Ann of Fam Med 2010 8:374-375.
【この文献を選んだ背景】
我々北海道家庭医療学センターでは、現在I-HOPEと共に研究の活動を開始しているが、その際に日本における家庭医などの実地医家がチームで研究を進めている事例があるかどうかを福原先生に質問したところ、あまり前例をご存じないということであった。
そこで、日本において今後家庭医療の研究を発信していく際に必要なことは何かと思案していたところ、このNEWSを見つけたため共有し、日本における適応の可能性を議論したい。
【要約】
メンターシップは家庭医の個人的な成長やキャリア形成の上で非常に重要な役割を持っている。家庭医療学において学術、研究の領域で適切なフィールドを構築するためにも必要となる。この記事ではメンターシップの重要性と、主要な要素なコンポーネントを見出し、メンターシップの個人や施設における障壁を同定し、それらを乗り越えるステップとしたい。

メンターシップは医学の専門性発展のための重要なformal social supportである。このサポートは以下の4つに分類される。
(1) emotional support・・・共感や信頼を提供
(2) instrumental support・・・具体的な支援を提供
(3) informational support・・・アドバイスや情報を提供
(4) appraisal support(評価)・・・形成的なフィードバックと激励をする
これらは重要であるが、一人のメンターが全てを提供する必要はない。たいていの人には複数のメンターがいて、彼らが相補的に支援してくれていることが多い。 メンターはメンティーが研修を受けている際には提供されるものであるが、研修早期からずっとメンタリングを受け続けることが重要である。

学術的な分野にいる医師は十分な経験や時間がないと感じているため、メンターシップを提供することに抵抗を感じることもある。メンティーは多種多様な経験レベルのメンターを必要とし、それぞれのレベルのメンターから様々な学びを得る。

メンターシップはたいてい個人レベルに対して提供されるが、その利益は個人と組織の双方に認められる。それゆえ、施設間の障壁が取り除かれ、メンターシップに対する動機づけがなされることで組織は変化する。特に家庭医療が研究の分野での成功を収めるためには重要となる。家庭医が小児科医や内科医と同様にメンターシップを受けたとしても、フェローシップ終了後のメンターシップはほとんど受けることができず、臨床家や研究者としてのファカルティのポジションもあまりなく、ほとんど論文も出てこないだろう。よって、研究分野において家庭医療をもっとアピールし、研究、論文を増やしていくことが望まれるのであれば、新しい研究者に対するメンターシップ制度の構築は不可欠である。

North American Primary Care Research Group (NAPCRG)は、地域においてメンターがいないprotégésのためにメンターシップを提供するワークショップやプログラムの開発を行っている。このプログラムの目標は、家庭医療におけるリサーチメンターの数、質、効率、そして生産性の向上にある。Grant generating project(STFM、AAFP、NAPCRGの共同出資)は研究活動に対して支援者がない新人の研究者に対して教育とメンターシップを提供する機会を与えている。
【考察とディスカッション】
HCFMはiHOPEとの協働のフェローシップにより研究のフィールドが確保され、支援が行われるという幸運に恵まれている。しかし、日本において家庭医療の専門性と重要性をさらに普及させていくためには施設間の障壁を取り除き、開かれた形でのこのような支援体制が不可欠なのだろうと感じた。
今後、施設横断的に行える研究体制の構築、メンターシップの普及を行うことが求められる。おそらく学会などが主体となってこれらの活動を支援していく必要があるのだろう。場合によっては厚生労働省、文部科学省などの公的機関の検討課題として上がってきてくれると、資金面でも前進するのではなかろうか?
【担当者】
中川貴史(寿都町立寿都診療所)
【開催日】
2010年10月20日(水)
# by hcfm | 2010-10-20 11:16 | Journal Club

Journal Club ~プライマリケアにおける誤診・診断の遅れの事例にはどんな特徴があるか?~

【文献】
Diagnostic difficulty and error in primary care –a systematic review- Family Practice 2008; 25: 400-413.
【この文献を選んだ背景】
先日、当直帯に初めて急性コンパートメント症候群を経験した。やや非典型的なものだったが、何とか早期に専門医へ紹介出来たが、その一方でまれで進行の速い疾患のマネージのむずかしさを感じ、誤診の危険性が日々の診療に潜んでいることも痛感した。一つ一つの疾患の勉学は重要ではあるが、疾患は無限にあるため、誤診の側からの視点も重要と考えて調べてみたところ、1件のSystematic reviewにたどり着いた。家庭医にとっても差し迫った問題と感じたので、今回共有したい。
【要約】
<導入>
このReviewは、①GPの診断ミスまたは遅れの状況 ②どんな特徴が、診断を困難にしたり、誤りの可能性を高めているか の2点を同定するために行われた。
<方法>この論文の著者らが設定した検索ワードでPubmedを検索し、タイトルや内容からさらに絞り込んだ21のGPの診断ミスに関する文献をレビューした。具体的には、GRADEシステム(異なるMethodologyの文献をお互いに評価出来る方法らしいです)でStudyの質をチェックし、かつ診断ミスが起こる事例が持つ特徴を割り出した。
<結果>
●上記のごとく21の文献が該当した。そのうち、2つの前向き研究以外は、全て後向き研究だった。
●Errorの定義は文献によって異なっていた。
 ・避けられるべき診断の遅れ、行うべき紹介が初回で行われなかった事例
 ・初診から診断までの時間が適切かどうか(適切の基準はそれぞれの文献ごと)
 ・診断ではなく、マネージ全体の適切さを扱っているものもあった
●診断ミスや遅れが起こりやすい事例の特徴
 ・7つの文献は原著で言及があった。
 ・筆者らは、診断の困難さと結び付く5つの特徴を見出した。すなわち、1非典型的な臨床像 2特異的でない臨床像 3非常に有病率が低い疾患 4併存疾患の存在 5認識できる特徴が見逃される(見逃されやすい)もの、であった。この特徴を複数持っているものも多かった。
1非典型的な臨床像
いわゆる「Prototypical features」が無いことを指す。Prototypicalとは、最も多くの患者が持つ特徴、進行した疾患でみられる特徴、医学書に単純によく描かれている特徴を指す。
  予想しない症状の特徴を指すこともある。(右腕に放散する胸痛とか。)
 レビューした文献の中では、例えば「Breast Lump」が無い乳がん、心筋梗塞における非典型的な症状(めまい、胃の痛み、刺すような痛み、など)や典型的な症状が無い状況があった。また、女性の心筋梗塞もより搬送が遅れる傾向にあるという分析もあった。
2非特異的臨床像
診断価値が低い特徴や、鑑別診断をよりわけられない特徴を指す。以下にStudyを列挙する。
 ・喘息において咳自体が、上気道炎などと同じように非特異的なものである。
 ・小児の骨の悪性腫瘍においては四肢より体幹の方が見逃されやすい(内臓痛や機能性疾患の非特異的な症状と捉えられてしまう)
 ・胃癌の初期症状であるDyspepsiaや心窩部痛(一般人口の40%が1年のうちに経験する症状)などが例に挙げられる。胃癌についての前向き研究では、体重減少や嚥下障害、黄疸、貧血といった、赤旗徴候の人の方がよりGPは紹介していた(48%vs32%)しかし、実際のPPVは3%でしかなく、しかも胃癌の半分はAlarm sympotomなしで診断されていた。
3非常にまれな疾患
まれな疾患は、考慮される頻度が少ないこと、症状が特異的であっても事前確率が低いため、PPVが非常に低いことなどが関与していると思われる。
 ・舌癌・網膜芽細胞腫が例として挙げられていた。

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# by hcfm | 2010-10-20 10:58 | Journal Club

Journal Club ~Capabilityアプローチ~

【文献】
Ferrer RL, Carrasco AV. Capability and Clinical success. Ann fam med 2010;8(5):454-60.
【この文献を選んだ背景】
慢性疾患へのアプローチは患者中心の医療、行動変容、家族志向型ケアなど、家庭医療のコア要素が大きな影響を与える領域であり、家庭医の力量を示すバロメーターとも言える。今回、AFMにてこのテーマに対して従来の概念と異なる問題提起をした論文を見つけたため、HCFM内で共有する価値があると考えた。
【要約】
《プロセスとアウトカム改善の間の乖離》
・ 慢性疾患の管理において、多くの臨床研究ではケアプロセスの改善とアウトカムの間の乖離が示されている
・ その理由の一つは、成功がヘルスケアシステムのコントロール外にある、患者が不健康な行動を変えて疾患を管理しようとする能力に依存しているからである。
・ 患者の参加度合いを高めるために、自己効力感のような全人的な関わり、そしてそこから起因する介入としてempowerment、自己マネジメント、motivational interviewingのような方法が開発されて、一定の効果をもたらしている。
・ ただ、こうした方法論は外部の環境が実際に行動変容の機会を与えているかどうかはあまり強調していない。今までのアプローチが十分な成果を挙げなかったのは、こうした健康の社会的要因への理解が乏しかったからではなかろうか。
《制約:健康的行動への環境面からの障害》
・ 実例として、貧しい地域に住む住人は健康的な食事をとる機会が減り、運動も実施しづらく、肥満の罹患率は上昇していく。つまり、健康的な生活を送るための資源が最初から乏しい。
・ こうした健康の不均衡をもたらす構造的原因となる一般的な状況や環境面の障害については、現在のアプローチでは十分取り上げられていない。
・ もちろん、communityレベルでこうした問題に取り組むアプローチも重要だが、診療所を基盤とした効果的な方法論を開発することも重要であり、プライマリ・ケアが広く国民に受け入れられるためにも必須である。

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# by hcfm | 2010-10-13 12:10 | Journal Club

Journal Club ~発売されたばかりの新薬。使う?使わない?~

【文献】
Pelger S. Underhill J.: Evaluating the safety and effdectiveness of new drugs. Am Fam Physician : 82(1)53-57, 2010.
【この文献を選んだ背景】
DPP-4阻害薬。糖尿病治療の新薬である。低血糖の副作用もほとんどなく、血糖値もよく下がり・・・いいことずくめのように見える。周辺の医療機関でもみな採用し、積極的に使用しはじめている。
調べてみるとまだ患者中心のアウトカムを設定した研究はまだないようだ。たしかによさそうな薬なのだけれど本当に採用すべき?AFPに上記タイトルのレビューを見つけたので紹介する。
【要約】
《はじめに》
発売されたばかりの新しい薬剤は既存の治療法のように幅広く研究されていなかったり、効果や安全性が十分検討されていないことが多い。
この問題に対処するためにSTEPSという語呂合わせがよりよい意志決定を行うために有用である。
《Safety: 安全性》
入院患者の約6.5%が薬剤の副作用によるものであるという報告がある。
新薬の安全性の問題は治験段階で明らかにならないこともあり、明らかになるのに長期間を要することも多い。米国では販売承認後に重大な副作用が明らかになる薬剤が10%もあり、新薬の重大な副作用が判明するまでの中央値が3年であるという報告もある。
こういった問題の背景には新薬の販売承認の決定が患者数1500人程度の短期間の臨床研究をよりどころとしていることがある。
《Tolerability: 忍容性》
多くの薬剤は症状を治療するためではなく未来に発生しうるイベントのリスクを避けるために処方される。こういった薬が患者の具合を悪くしてしまうのであれば、もはや継続することはできない。
《Effectiveness: 有効性》
97%の新薬は代用エンドポイントを設定した短期間のエビデンスをよりどころとしている。
短期間のエビデンスを元に発売され、その後有害であることが分かった薬剤も多い。
Milrinoneは心不全患者の心拍出量を増大させ運動耐容能を改善するというエビデンスをもとに発売になったがその後、死亡率を上昇させることが分かった。
新薬の採用について考えるとき、いつもこう問うべきである。
「この薬剤には既存の同様の薬剤と比較して私の患者の生命予後やQOLを改善するエビデンスがあるか?」

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# by hcfm | 2010-10-13 11:53 | Journal Club
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